単記移譲式投票とは
単記移譲式とは、議会選挙の方法です。本サイトの目的は、この選挙方法について解説することです。
単記移譲式は、有権者の選ぶ権利を守り、有権者の多様性を議会に反映させる選挙方法です。
順位をつけて投票 無駄な票を再利用
単記移譲式では、各有権者は候補者の順位をつけて投票します。そして、その順位に基づいて、落選者確定者の票および当選確定者の余分な票を他の候補に移譲(再利用)し、最終的に一議席あたりの得票数を均等化するように当選者が決定します。
(1) 候補者に順位をつけて投票すること、(2) 無駄な票を再利用しながら当選者を決定すること、この2つが単記移譲式の選挙方法の特徴です。
死票を恐れずに安心して投票
現在の日本選挙では少なくない人が、本心から支持する候補とは別の候補に投票しています。当選見込みのない候補に投票することや、当選がわかりきっている候補へ投票することで、選挙結果を最悪にしてしまうことを恐れるからです。
単記移譲式では、落選者確定者の票および当選確定者の余分な票は再利用されるので、有権者は自分の票が死票になることをおそれずに、安心して投票することができます。
単記移譲式は、有権者の気持ちを大事にしながら、死票の少ない選挙結果をもたらします。
有権者に直接的な選択肢を
単記移譲式は有権者が候補者を直接選ぶ権利を保障します。政党の枠組みが、有権者の思いとすれ違うような状況でも、有権者に意味のある選択肢を与えます。
この点が、同じく「死票の少ない制度」と謳われる名簿式比例代表制との大きな違いです。
また、政党内の予備選挙のように、参加するために党員になる必要はありません。
比例代表を実現
単記移譲式は、組織的な「調整」に頼ることなく、一定の有権者の支持に対して一議席を与えます。その結果、多数の人には多数の当選人、少数の人には少数の当選人を与えます。
従来の中選挙区制と異なり、同じ政策を掲げる候補者の一方が票を取りすぎて同士討ちや共倒れをおこして損をすることはありません。
政治参加の機会不平等の是正
政治参加の機会は,現実には平等ではありません。政治献金を出せる余裕のある人、選挙ボランティアに参加する時間・労力がある人は限られています。周囲の人と気兼ねなく政治の話が出来ない人は少なくありません。メディアの情報から政治家の行動を監視するだけでも、時間的・精神的な余裕が必要です。他人に投票を呼びかけるときの効果は、社会的な地位がものを言います
政治参加の機会において優位な地位にある人々や団体は、選挙の前までに熱心に活動をして、「候補者えらび」を行います。 一方、政治参加の機会の乏しい有権者は、投票所にたどり着いて、不満だらけの選択肢の中から、しぶしぶ投票せざる得ない状況に追い込まれています。
単記移譲式は、有権者の選ぶ権利を保証し、かつ死票を減らすことを通じて、政治への参加機会の不平等を緩和する働きがあります。
単純で納得しやすい発想
単記移譲式は、「無駄な票を有権者が決めた順に移譲する」という自然なアイディアに基づいてつくられており、有権者に理解・納得されやすい選挙方法です。
単記移譲式は、有権者に理解しにくい複雑な方法だと批判されてきました。はじめから、単記移譲式の細かな部分に注目すると「難しい」という印象を持つ人がいるのは確かです。
しかし、順序よく学べば、決して理解しにくい方法ではありません。
長い歴史・実践経験
単記移譲式は、長い歴史を持ち、アイルランドでは独立以来この方法で議員を選挙し続けています。国政レベルでは、オーストラリアやインド、地方レベルではニュージーランドやアメリカ・スコットランドなどもこの制度を取り入れています。
アイルランドの選挙の開票の様子(大芝健太郎氏による写真)
コンピューターの普及と機械化で簡単手軽に
単記移譲式に反対する人は、「日本のような人口の多い国では、単記移譲式は複雑で実行不可能だ」と強調します。しかし、この30年あまりで、状況は大きく変化しました。開票作業の機械化とコンピューターの普及が、単記移譲式を簡単で安定的なものにしました。
用紙を使った投票でも、票の読み取り・分類作業は機械を使って実行可能です。電子投票という選択もあります。電子データとなった投票結果から当選者の決定をする作業も、ごく普通のパソコンでも短時間で実行可能です。
再評価が進んでいます
諸外国でも新たに単記移譲式を導入しようという動きが広がっています。欧州議会の選挙でも取り入れられています。
単記移譲式が、社会の中の多様性を議会に反映させ、有権者の選ぶ権利を尊重する制度だと考えられているからです。
日本では
帝国憲法の時代は、日本でも単記移譲式の導入が検討されていました。単記移譲式は、その理想的な性質から「公平選挙」ともよばれていました。
議会開設の功労者である板垣退助は、この方法の推進者の一人でした。
日本の選挙制度改革を考えるために
現在の日本国においては、2つの選挙制度改革が話題になっています。一つは衆議院議員選挙における「中選挙区制復活論」です。もう一つは、地方議会における選挙制度改革です。
焦点となるのは、複数人選出の選挙区に対し各有権者が一名の候補を選び、得票順に当選者が決まる仕組みです。衆議院議員選挙における「中選挙区制復活論」は、それを復活させるべきだという主張です。地方議会における選挙制度改革では、それを廃止することが提言されています。
「政治学者」達は、伝統的なこの方法を単記非移譲式と呼んでいます。この名称は、伝統的な方法の欠点を強調するように、「単記移譲式」との対比でつけられたものです。
「中選挙区制」の先にあったもの
単記非移譲式は、120年前に日本の選挙に導入されましたが、長所もありますが欠点もあります。
単記移譲式は、単記非移譲式の欠点を克服する一方で、長所の多くを受け継ぐものです。これまでに特に旧憲法下では、少なくない人達が、単記移譲式の導入を試みましたが、技術が発達していない時代ゆえに果たせませんでした。
その後、平成の政治改革によって、衆議院議員の選挙から単記非移譲式はなくなりました。しかし、「中選挙区制」廃止以後、衆議院議員総選挙の投票率は、「中選挙区制」時代に比べて高くはありません。
このサイトの目的
このサイトの第一の目的は、単記移譲式を解説することです。単記移譲式は、日本語でのわかりやすい解説が少ないと感じられるので、お役に立てるかもしれません。
このサイトの第二の目的は、単記非移譲式の歴史・設計意図を解説することです。単記非移譲式とは、 かつての衆議院議員選挙における「中選挙区制」・地方議会の選挙・参議院地方区の選挙などで用いられる選挙方式です。単記非移譲式については、誤った情報が多いので、誤解を解くきっかけになるかもしれません。
また、このサイトでは、名簿式比例代表制の基本的なしくみや、一度日本でも採用されたことのある制限連記制などについても解説をします。