予備選挙
議席数が限られている以上、どのような制度の下でも、同一政党内の競争は避けられません。有権者を交えた選挙を通した競争を行わなければ、「候補者調整」の名の下で政党関係者などの限られた者だけで密室で競争を行わなければなりません。
政党内の意思決定を民主的なものにするために、政党内での選挙「予備選」を整備しようという考えが生まれます。政党内で予備選を行えば、有権者に多様な選択肢を示すことができるという訳です。 しかし、予備選は本選挙とは本質的に異なる点があることに注意しなければなりません。
1.公平性と政党の自由
2.活動家優遇
3.社会の分断
公平性と政党の自由
予備選は政党内で行われます。したがって、予備選における選挙活動は法的な制約を受けません。当然、投票依頼のための賄賂・饗応についても警察による捜査・摘発もありません。
かつて自由民主党の総裁選挙は、そこで動く金銭が問題視されました。
一方、政党内の予備選について警察が関与することになれば、それは結社の自由を制限していくことになります。
入党の壁
予備選は「党員」によって行われます。しかし、政党に入党することは、秘密投票と違って、自分の政治的立場をある程度明らかにしていくことです。
したがって、政党に入党することは、有権者の立場や考え方によっては、ハードルの高いことです。また党員の資格要件を定め、入党・除名を決めるのは政党の自由です。
活動家優遇
「本選挙での選択肢の少なさを、予備選挙で補う」というのは、「活動家」にとって都合の良い主張です。なぜなら、秘密で行われる本選挙という、活動家達にとって最もコントールしにくい制度の影響力を低下させるからです。予備選挙に参加するのは、ある程度の政治的立場を明らかにした「活動家」です。
活動家の優遇な、小さな組織が入党を通して、影響力のある既存政党を乗っ取る戦略、いわゆる「加入戦術」有効なものにします。かつて日本社会党は、新左翼党派の加入戦術があったとされます。また、近年、自由民主党に対するカルト団体の加入戦術が問題視されています。
「一般党員の拡大」で社会を分断
少数の先鋭的な党員による専制を防ぐために、政党内の「改革者」は一般党員を増やそうとします。しかし、これは、より多くの人を活動家にしていくことに他なりません。 「一般党員の拡大」は、社会全体を政党の枠組みで分割していくことになります。
政党の枠組みで予備選が行われるので、政党の特徴が出る議論が活発になる一方で、政党の枠を超えた議論が低調になっていきます。
本選挙での裏切りに怯える
できるだけ多くの人が予備選挙に参加できるようにすることは、その政党に貢献も愛着もない人にも予備選挙の参加を許すことになります。その場合、その人達は、本選挙で別の党の候補に投票する危険は大きくなります。
対立する政党の支持者たちが、弱い候補が選出されるようにに予備選挙に参加するかもしれません。