多様性のある議会・政党に対する批判

単記移譲式は、少数派にも一定の議席を保証し、しかも「人」を直接選ぶ制度です。したがって、単記移譲式は、議会内および政党内に多様性をもたらします。複数人選出の単記移譲式に対する批判の一つは、この多様性に対する批判です。

多様性批判の背景

日本のマスメディアや一部の学者の政党意識は、1.新旧の政治・経済の中心である米国や英国の二大政党制への憧れと、2.非分権的で反個人主義的な官僚的な政党への憧れが組み合わさっています。

この憧れは、議会内の多様性・政党内の多様性を否定的に捉える傾向をもたらします。

A.多数代表論

A1.議院内閣制でも直接政権選択?
A2.小選挙区制で政権選択?
A3.多様性と安定性

B「政党内の競争に有権者が参加」に対する批判

B1.選挙から密室へ
B2.「政党内で予備選」
B3.政党は正義・派閥は悪
B4.政党に同情・有権者に薄情
B5.「一般党員の拡大」

多数代表論

A1. 議院内閣制でも直接政権選択?

強固な少数派に議会で多数の議席を与える制度を支持する人は、「有権者が、議院内閣制の下でも、選挙で政権が選べる」ことを強調します。この考え方は、議会が総理大臣の指名を通じて、内閣を選ぶ機能のみを重視したものです。

a. 議院内閣制の客観的な手続き

衆議院の選挙を「実質的に」政権選択選挙であると強調されることがあります。しかし、これは憲法が定める議院内閣制の客観的な内容とは異なる、主観的な解釈・希望に過ぎません。

そもそも、憲法が定める議院内閣制は「総理大臣を直接選べない」制度です。実際、投票用紙に有権者が記入するのは、首相候補ではなく議員候補です。

このような制度のメリットは、議会に内閣を監視・監督する機能を与え、内閣が定期選挙まで独裁をすることに阻止する力を担保できることです。

b. 強固な集団による立法権の掌握

「有権者が、議院内閣制の下でも、選挙で政権が選べる」選挙制度は、強固な集団に無理やり多数の議席を与えます。そのような制度では、強固な集団が、立法権と行政権、そして行政のチェック機能のすべてを掌握し、専制が実現します。

比較多数の政党に対して、「ボーナス議席」を与える名簿式「比例代表」制度は、イタリアにおいてはムッソリーニ政権に絶対多数の議席を与え、後に議会は一党制になりました。

c. 大統領制・首相公選論との違い

中曽根康弘や小泉純一郎は、首相公選論を唱えました。これは、ある党派に、議会の議席を独占させようという考えとは異なります。

A2. 小選挙区制で政権選択?

「単純小選挙区制」は、「議院内閣制でも直接政権選択」という観点から評価されることがあります。しかし、単純小選挙区制への肯定的評価は、英国の政治に対する肯定的な評価に基づいていることに注意しなければなりません。すなわち、英国は、民主主義の伝統が長く、また単純小選挙区制を採用してきた、そして、英国の政治はうまくいった、したがって、単純小選挙区制は良い制度だ、という訳です。

「単純小選挙区制」をとる英国は、完全連記の大選挙区制から、少数派にも議席を与えやすい小選挙区制に移行した歴史を持ちます。英国において、地域を細分することは、多様性を確保する意味を持っているのです。

米国においても、選挙区割を多様性の確保のために利用するという考えが一定の力を持っています。上院および下院の議会、大統領選挙においても、政党支持率の地域差が議会の多様性に反映されています。

小選挙区制が、多数派の代表を「決定」するのは、あくまでも一選挙区内の問題であり、議会全体や内閣の問題ではありません。また、英国でも、二大政党のどちらも過半数をとれない状況が生まれ、交渉の末に連立政権が成立したことがあります。

A3. 多様性と安定性

議会内の多様性を批判する人は、過半数の議席を持つ政党は現れず、出来上がった政権も不安定になると強調します。

しかし、議会内に安定した多数派が形成されないのは、既存政党が「本当の多数派」になれない「小さくまとまった集団」であるからです。

どのような議会であれ、内閣の安定は、議会内で過半数を占めるような目的・政策を掲げることによってもたらされます。日本のいわゆる55年体制における自由民主党も「保守合同」によって生まれました。

議会内の多様性は、小党分立とは区別されます。政党の数が少なくても、政党内に多様性が確保される場合があります。実際、単記移譲式をとるアイルランドは、小党分立していません。

多様性のある議会・政党でも安定政権が続くことがあります。単記移譲式の経験が長いアイルランドでは、共和党が長く政権の座にありました。日本の55年体制において中選挙区制は、安定政権をもたらしました。

B.「政党内の競争に有権者が参加」に対する批判

単記移譲式の選挙は、過半数を得ようとする同じ政党の候補者が、同じ選挙区である程度は競争しなければならない制度です。単記移譲式に対する批判のもう一つは、同じ政党の者が同じ議席を争うのはおかしいという批判です。

競争の程度

同じ政党の者が同じ議席を争うときの激しさの程度には気を配る必要があります。

単記移譲式の導入によって、票の取りすぎや票割れの問題は解決するので、移譲がない場合に比べて、同じ政党に属するなど考え方の似た候補達の選挙協力はある程度進むと考えられています。

また、現行の参議院の非拘束名簿式の選挙や、惜敗率によって当選順位が変化する衆議院の比例区の選挙も、同じ政党の者が同じ議席を争う選挙です。

厳密に、同じ政党の者が同じ議席を争うことのない選挙は、候補者調整が成功したあとの一人選出の選挙、厳密な拘束名簿式の選挙など限られたものになります。

B1.選挙から密室へ

しかし、議席数が限られている以上、どのような制度の下でも、同一政党内の競争は避けられません。有権者を交えた選挙を通した競争を行わなければ、「候補者調整」の名の下で政党関係者などの限られた者だけで密室で競争を行わなければなりません。前者は多くの人が関わる分、民主的だと言えるでしょう。後者は、非民主的なものになります。

一方、選挙で、多く人に思いを伝えるには多くの労力がかかります。選挙の不正がなくても、「人を選ぶ制度は金がかかる」のは、このような理由によります。所得や資産・労力の不均等が、政治的な不平等さにつながらないようにすることは大切ですが、選挙での競争をやめれば政治的な不平等が解消する訳ではありません。

B2.「政党内で予備選」

小選挙区制や拘束名簿式の非民主的な側面を、政党内での予備選挙によって達成しようという考えがあります。しかし、政党に入党することは、秘密投票と違って、自分の政治的立場をある程度明らかにしていくことです。したがって、政党に入党することは、有権者の立場や考え方によっては、ハードルの高いことです。

政党内での予備選挙によって、小選挙区制や拘束名簿式の非民主的な側面を補えるという主張は、政治学者・政治家・政治評論家・政党職員・政治記者などの「活動家」にとって都合の良い主張です。なぜなら、秘密の一般投票によって選ぶことのできる選択肢の少ない制度は、非活動家の影響をコントロールしやすくするからです。

B3.一般党員の拡大

少数の先鋭的な党員による専制を防ぐために、政党内の「改革者」は一般党員を増やそうとします。しかし、このことは、社会全体を政党の枠組みで分割していくことになります。

政党の枠組みで予備選が行われるので、政党の特徴が出る議論が活発になる一方で、政党の枠を超えた議論が低調になっていきます。

B4.政党は正義・派閥は悪

党内の派閥は、競争のためには、選挙にも力を入れることになります。そして、党内競争のために、選挙費用の調達が重要になり、派閥の金銭調達方法が問題視されます。

しかし、派閥は政党内の政党という役割を果たしています。政党が良くて派閥がいけないという主張の根拠は明らかではありません。派閥の運営の仕方に対する批判と、派閥解消論は区別されるべきです。

政党が異なっても、状況によっては、はっきりした理念や大きな政策での違いが出せなくなる場合はあります。二大政党が利益団体へのサービス合戦をする状況が生じることもあります。「政党本位」と「政策本位」は区別されるべきです。また逆に、派閥が政策とは無関係とは言えません。

B5.政党に同情・有権者に薄情

マスメディアは政治ニュースと称して、政党の動向に関する情報に注目します。そして、政党執行部の苦悩や、政党運営の難しさを報道します。「政治学者」は、政党に注目し、政党運営がうまくいく仕組み・方法を考えます。

こういったメディアや「政治学者」は、政党執行部に同情するようになり、政党執行部に都合の悪い「人を選ぶ選挙」を批判して、有権者から「人を選ぶ権利」を取り上げようとする傾向にあります。