中選挙区制

そもそも中選挙区制とは選挙区の大きさが「中くらい」を意味する言葉でした。

歴史的には1925年の男子普選と同時にはじまった、一選挙区で3〜5人を選出する衆議院議員選挙の方法を、それまでの制度との比較から「中選挙区制」と呼ぶようになりました。

中選挙区制時代の広島県の区割

衆議院議員の選挙制度の変遷および、区割りのあり方については、次のサイトで詳しく解説されています。

衆議院議員選挙制度の変遷

複数人選出の非移譲式

現在では、次のような制度を「中選挙区制」と呼ぶことが多いようです。

「各有権者が一人の候補の名前を書いて投票し、得票の多い順から複数人が当選する。」

このような選挙方法は、単記移譲式との比較から単記非移譲式 (Single Nontransferable Vote) と呼ばれています。

昨今の多くの文献では、Single Nontransferable Vote (SNTV)は複数人区の選挙に対してのみにつかい、一人区についてはFPTPなどと呼んでいます。

詳しくは用語の整理

このページでは誤解のないように複数人選出の単記非移譲式と呼ぶことにし、この制度について解説します。

ある程度の少数派にも議席を保証する制度

この選挙方法の特徴は、選挙区内での少数派にも一定の議席を保証する点にあります。議席の定員が \(n\) である選挙区では、全有権者の \[\frac{1}{n+1}\]をこえるだけの票数があれば、確実に一議席を獲得できます。これだけの票があれば、確実に順位が \(n\) 番目以上になるからです。

したがって、この投票制度は、少数代表制度であると呼ばれてきました。少数代表の用語については、こちらへ

日本での長い歴史

複数人選出の単記非移譲式は、地方議会および参議院の地方選挙区の、複数人区で実施されています。

この制度は、衆議院でも長い間使われてきました。最初に導入したのは、伊藤博文および林田亀太郎ですが、全国一律に導入されたのではなく、57の一人選出の選挙区がありました。

伊藤博文

全国一律に導入されたのでは、1925年に男子普通選挙が導入されたときです。

中選挙区制の歴史についてはこちらへ

同士討ちと共倒れ

この制度のもとでは、議会の過半数を得て政権を取ろうとする政党は、各選挙区に複数擁立することになります。以下のような欠陥が指摘されています。

1.「票のとりすぎ 同士討ち」

「中選挙区制」では、同じ党の別の議員が票を取りすぎてしまったので、自分が落選してしまうということがあります。

第29回衆議院議員総選挙 山口二区(1960/11/20)
佐藤栄作当 自民党 94785 26.0%
受田新吉当 民社党 66398 18.2%
大村邦夫当 社会党 51982 14.3%
山田耻目当 社会党 50702 13.9%
岸 信介当 自民党 49877 13.7%
小沢太郎落 自民党 43841 12.0%
青木清保落 共産党 6956 1.9%

単記移譲式では、取りすぎた票は移譲されるので、このような現象は解消されます。

2.「票割れして 共倒れ」

「中選挙区制」では、同じ党の候補者と票が均等になりすぎて、共倒れしてしまうことがあります。

第18回参議院通常選挙 愛知選挙区(1998/7/12)
木俣佳丈当 民主党 500,483 17.4%
佐藤泰介当 民主党 457,236 15.9%
八田ひろ子当 共産党 453,298 15.8%
大木 浩落 自民党 443,904 15.5%
浦野烋興落 自民党 411,357 14.3%
都築譲落 無所属 218,403 7.61%
他10名

単記移譲式では、落選者は一人ずつ決定し、その票は残った候補に移譲されるので、共倒れリスクは生じません。

「中選挙区制」批判の分析

「票の取りすぎで同士討ち」および「票割れして共倒れ」現象は、誰もが認める複数人選出の単記非移譲式の欠点です。それ故に、複数人選出の単記非移譲式は、絶えず批判にさらされることになります。

不当な批判と正当な批判

ただし、この批判が、上に述べた同士討ちおよび共倒れ現象と本当に結びついているのかは、慎重に判断しなければなりません。あまり根拠のない議論も、科学的あるいは説得的な議論にまぎれることによって、立派なものに思えてしまいます。

たとえば、中選挙区制批判の中には、次のような単記移譲式批判と共通のものも少なくありません。

1. 多数代表制でないことに対する批判

2.「政党内の競争に有権者が参加すること」に対する批判

このような批判は、誰もが認める複数人選出の単記非移譲式の欠点とは関係のないものです。「票の取りすぎで同士討ち」および「票割れして共倒れ」現象は、単記移譲式では解決される問題だからです。単記移譲式に対する批判はこちら

中選挙区制批判の問題点

中選挙区制は長く続く制度だけに、(過去または現在の)現実に対する不満のはけ口にされやすいところがあります。それゆえに、批判の中には、説得力のないものが「通説」の一部として流布している場合があります。不当な中選挙区制批判の特徴を理解しておく必要があります。

1.史実を無視して仮説が先行

中選挙区制批判のなかには、中選挙区制について史実を無視して、理念(イデオロギー)と仮説が先行した議論が少なくありません。

中選挙区制の歴史についてはこちら

2.陳腐な日本異質論

中選挙区制を批判する人は、それが「日本だけの特異な制度」であることを強調して、その不合理性を印象づけようとします。

しかし、この制度の導入者であった伊藤博文も林田亀太郎も、特異性については十分に承知した上で、議会と政党の健全な発展を彼らなりに願って、この制度を推進しました。

3.政党への期待と国民主権の軽視

中選挙区制批判の多くは、既存政党への大きな期待を前提としています。そして、政治がうまくいかない理由を、政党運営が円滑にいかないことにもとめ、さらにその原因を政党執行部にとって不都合の多い「人を選べる選挙制度」にあると結論します。それゆえ、選挙民の選ぶ権利を軽視した議論が少なくありません。