混合制

小選挙区と名簿式の混合

日本の衆議院の選挙も参議院の選挙も、一部の議員を名簿式で選び、他の議員を1人区または複数人区の単記非移譲式で選ぶ混合制度です。 日本の場合、どちらの場合も、各政党の名簿式で選ばれる議員の数と、その他の制度で選ばれる議員の数は別個に決まります。 このような制度は、並立制と呼ばれています。

名簿式で全体を調整

一方、併用式、連用式といった、小選挙区制での当選者数に応じて、全体の議席を名簿式で調整する方式があります。調整の程度には幅があり、微調整に留める設計も、獲得議席数はほぼ名簿式で決定するような設計も可能です。

また、理論的には、名簿式と組み合わせるのは小選挙区制でなくても良いことが分かります。実際、どのような選出方式とも、並立式、併用式、連用式、で組合わせることができます。例えば、名簿式と中選挙区制を連用式で組み合わせることも可能です。また、とくに、名簿式を他の名簿式と組み合わせることも可能です。

連用制の説明のわかりにくさ

日本のメディアでは、連用制についての説明がわかりにくいものが多く、その結果、連用制は不合理なものとの印象が与えられているように思います。 その原因は、選挙制度に関する書籍も、「ドント式の除数を小選挙区の当選者数+1から開始する」という説明に終始して、なぜそのような 方法が正当化できるのかを説明していないところにあると思われます。

このページでは連用制をある程度、合理的に説明してみます。

並立制

もっとも簡明とされる並立制を考えて見ましょう。

\(n\) を全体の議席数、\(q\) を名簿式での議席配当数、\(m\) を小選挙区制の勝者数とします。並立制においては、\(n, q, m\) は有権者の得票数に依存せずに固定されています。当然、 \[n=q+m\] が成立します。

また、政党は、政党\(1\), 政党\(2\),...,政党\(k\) まであるとしましょう。

名簿式での得票数にしたがって、各党に名簿式での議席を配当します。政党 \(i\) が名簿式で \(q_i\) 議席配当されるとしましょう。このとき、 \[q=q_1+q_2+\dots+q_k\] が成立します。

また、政党 \(i\) の候補が小選挙区で \(m_i\) 人勝利したとすれば、 \[m=m_1+m_2+\dots+m_k\] が成立します。

政党\(i\) の獲得議席は、\(q_i+m_i\) です。名簿式と小選挙区で重複立候補を認めたり、名簿式を非拘束式にするなど、政党内の誰が議席を得るのかについては、様々な設計が可能です。

併用制

\(n\) を全体の議席数、\(q\) を名簿式での配当数、\(m\) を小選挙区制での勝者の数とします。併用制においては、\(q, m\) は有権者の得票数に依存せずに固定されています。しかし、\(n\)の数は変動します。とくに、 \[n=q+m\] が成立するとは限りません。

また、一般的には、\(q\geq m\) のケースが併用式と名付けられていますが、\(q+1 \leq m\) となるように設計することも可能です。

名簿式での得票数にしたがって、各党に名簿式での議席を配当します。政党\(i (i=1,2,\dots, k) \) が名簿式で \(q_i\) 議席配当されるとしましょう。このとき、 \[q=q_1+q_2+\dots+q_k\] が成立します。

また、政党\(i\) の候補者が小選挙区で \(m_i\) 人勝利したとすれば、 \[m=m_1+m_2+\dots+m_k\] が成立します。

政党\(i\) の獲得議席は、\[ \max \{ q_i, m_i \}\] です。すなわち、名簿式での配当と小選挙区での勝者数のうちの大きいほうです。\(q_i+1\leq m_i\) のとき、\(m_i-q_i\) は超過議席と呼ばれています。政党内の誰が議席を得るのかについては、様々な設計が可能ですが、どのような場合も小選挙区での勝者を必ず当選させて、\[\max \{q_i-m_i,0\}\] 人を追加的に当選させていきます。

最終的に全議席数は、 \[n=\max \{ q_1, m_1 \} + \max \{ q_2, m_2 \} + \dots +\max \{ q_k, m_k \} \] によって決定します。\(n-q\) が全超過議席数になります。

実質比例代表?

併用制は、すべての政党で超過議席が生じなければ、政党に関する議席分布は、すべて名簿式で決定されたことになります。超過議席の数が大体において少なければ、「超過議席」を例外的に説明する方法が、もっともらしく聞こえることになります。その結果、「併用制は、実質比例代表制」という説明が横行することになります。

しかし、超過議席がどの程度生じるのかについては、\(q, m\) の定め方に依存しています。例えば、\(q=m\) と設計したときに、超過議席が生じないときは、小選挙区での議席分布と名簿式の決める分布が一致する場合で、その可能性はとても低くなることが予想されます。さらに、\(q+1\leq m\)と設計すれば、常に超過議席が生じる訳です。

連用制

これまでと同じように、\(n\) を全体の議席数、\(q\) を名簿式での配当数、\(m\) を小選挙区制での勝者の数とします。連用制においては、\(n\)の値が固定されています。これが連用制の長所だとされています。\(m\) も有権者の得票数に依存せずに固定されています。そのかわりに、有権者の得票に応じて、\(q\) の値が変動します。

任意の自然数 \(q\) に対して、名簿式での得票数にしたがって、各党に名簿式での議席数を関連づけます。政党\(i\) が名簿式で \(q_i\) 議席配当されるとしましょう。このとき、 \[q=q_1+q_2+\dots+q_k\] が成立します。各 \(q_i\) は、\(q\) の値に応じて変化します。ただし、\(q\) が増加したのに、 \(q_i\) が減少することはないものとします。例えば、\(q\) 議席をドント式で各政党に配分すれば、この条件はクリアします。

\(q\) の値を \(0,1,2,\dots \) と上昇させていき \[n=\max \{ q_1, m_1 \} + \max \{ q_2, m_2 \} + \dots +\max \{ q_k, m_k \} \] となる \(q\) の値を決めて、各政党\(i\)の議席数を\(\max \{ q_i, m_i \}\)とします。

政党\(i\) の獲得議席は、名簿式での配当と小選挙区での配当のうちの大きいほうです。政党内の誰が議席を得るのかについては、様々な設計が可能ですが、どのような場合も小選挙区での勝者を必ず当選します。

\(q\) の範囲

最終的な \(q\) の値は、最小で \(q=n-m\) です。例えば、二票制で名簿式での配当議席数が \(0\) の政党が、小選挙区で全勝した際はこの値になります。

一方、最大では、\(q=n\) です。例えば、各政党の小選挙区での勝者の分布が、名簿式での配当の分布と一致した場合に、この値になります。

小政党に配慮?

連用制は小政党に配慮した、理念のない制度だとの批判がしばしばなされてきました。しかし、これは連用制の理念を説明しないまま、小選挙区制および並立制を基準に説明を行った結果です。

連用制は、原則議席配分を名簿式比例代表で行うが、小選挙区での勝者が名簿での配当よりも大きくなる政党を例外的に配慮して、名簿式比例で配当される議席の全体数 \(q\) を減少させていく方法である、と説明することが出来ます。

二票制とダミー政党 I

連用制や併用制は、、小選挙区での勝者を必ず当選者とする条件の下、全体を名簿への投票にしたがって、できるだけ比例的にしようという方法です。小選挙区での勝者を絶対に当選者とする一方で、名簿部分での当選者数 \(q\) や、全当選者数 \(n\) のどちらかを固定するので、名簿へ得票にしたがって比例的にはならない訳です。言い換えると、小選挙区での勝者は、名簿式の配当議席と別個に与えられる訳ではなく、名簿式での政党の配当議席にできるだけあてられていくのです。

これから説明するように、以上のことは、各政党が、小選挙区のための政党と、名簿のための政党の別個の政党をつくる誘引をもたらします。 すなわち、このような制度において、各政党は、名簿における政党所属と小選挙区の候補者の所属を切り離すことで、政党の実質的な議席を最大化することができます。もし、すべての政党がこのような対応をとると、有権者は名簿式への投票を行う際は、小選挙区の候補とは何ら関連を持たない政党へ投票することになります。このとき、連用制や併用制の設計意図は裏切られて、並立制とほぼ同様の制度として働くことになります。

若干の例外を除いて、どのような投票制度に対しても、設計意図と異なった有権者や政党の利己的な行動がありえます。単記移譲式にも、非単調性という現象が知られています。しかし、併用制や連用制の場合は、ダミー政党の設立が、絶対に議席減することなく、ほぼ確実に議席増に結びつくという点で深刻な問題だと考えられています。

ダミー政党の実際

実際に、ダミー政党の設立という問題は、韓国やイタリアで観察されています。

2001年のイタリアでは、二大勢力がこの戦略をとった後、その後、イタリアではこの制度は廃止されました。2020年の韓国の選挙ではは、ダミー政党は衛星政党という名称で呼ばれ、選挙制度は事実上の並立制となりました。

一票制と中小政党

それでは、ダミー政党の出現を禁止するために、中小政党の出現を禁止すればよいのでしょうか?もし一票制にした場合は、小選挙区に候補を立てない政党は、名簿に対しては得票できないことになります。また、小選挙区での死票を嫌って有力候補へ投票しようという行動は、そのまま有力候補の属する政党名簿への投票になります。一票制は、有権者の選択を奪う制度だと言われてきました。

二票制とダミー政党 II

併用制

例えば、併用式の場合、政党\(k\)は名簿式用の政党 \(k_A\) と小選挙区用の \(k_B\) に分割し、有権者に名簿式においては \(k_A\) へ、小選挙区においては \(k_B\) への投票してもらうことによって、議席を最大化させることができます。実際、名簿式での配当議席 \(q_k\) と小選挙区制での勝者数 \(m_k\) に対して、\(q_k+m_k\geq \max \{ q_k, m_k\} \) だけの当選者を獲得することが出来ます。

連用制

連用式の場合、ダミー政党の効果を正確に理解するのは、やや複雑になります。

まず、政党を分割しなかった場合の \(q\) の値を \( q \)、 政党を分割した場合の \(q\) の値を \( q^\ast \)とすると、 \[n= \sum_{l=1}^{k}\max \{ q_l, m_l \} \tag{1}\] \[n= \sum_{l=1}^{k-1}\max \{ q^\ast_l, m_l \} +q^\ast_k+m_k \tag{2}\] が成立します。

\(\max \{ q_k, m_k \}\leq q_k+m_k\)が成立するので、(1)式から、 \[n\leq \sum_{l=1}^{k-1}\max \{ q_l, m_l \}+q_k+m_k \tag{3}\] が成立します。(2)式と(3)式を比較して、\(q\geq q^\ast\) が成立するので、\(\max \{ q^\ast_{l}, m_{l}\}\leq \max \{ q_l, m_l \}\) が \(l=1,2,\dots,k-1\) に対して成立します。

したがって、(1)式と(2)式を比較して、 \[q^\ast_A+m_A\geq \max \{ q_A,m_A\} \] となるので、獲得議席を増やすことはあっても、減らすことがないことがわかります。

等号の成立条件を考察すると、次の例外的な場合を除いて、獲得議席を増加させることがわかります。すなわち、ダミー政党が生じた際の全配当数の減少分は、すべて政党 \(k\) が負担しているような状況です。

藤澤利喜多郎の補正式比例代表

数学者 藤澤利喜多郎(1861-1933)は、帝国議会の貴族院議員を勤め、選挙制度についても考察しています。「総選挙読本 - 普選総選挙の第1回」岩波書店 1928年 の中では、「補正式比例代表」の方法を提案しています。抜粋はこちら

藤澤の方法は、中選挙区と名簿式の混合制度であり、次のようなものです。

  1. 全議席 \(n\) の9割を中選挙区の定数 \(m\) とする。
  2. 中選挙区での勝者(3--5名)は、当選者とする。
  3. 中選挙区での所属候補の得票を合計し、各政党の得票数を計算する。(一票制)
  4. 総定数が \(n\) となる条件の下で、各政党の得票数に応じて、できるだけ比例的に補正するように追加議席数を決める。(連用制)
  5. 追加議席の当選者は、各選挙区の敗者の中から決めるが、最下位勝者の得票数に対する得票割合が多い候補が優先される。(惜敗率による優先順位)
  6. 中選挙区に立候補していない候補が当選することはない。

藤澤は後に名簿式を徹底的に批判していますが、上の 3 および 6 の条件があったので、自分の方法を名簿式とは考えなかったようです。選挙法の改正と比例代表 1932

無所属を意味する中立に対しても、総得票数によって議席を与えるなど、現代の感覚からはやや疑問がある部分もありますが、中選挙区制の場合、小政党も候補を立てやすく、一票制の弊害が小さくなるなど、気付かされる点の多い方法です。かつてのドイツの選挙制度は、小さな地域での名簿式を大きな地域の名簿式で補正するものであったようです。