ミーク法

ミーク法は、1969年 Brian Meek によって提案された方法です。ミーク法の特徴は、保有率を通じて票の移譲を行うことです。

保有率を通じて票を移譲することによって、ミーク法は次のことを可能にします。

  • A.票を移譲すべき候補が二人以上いても、どちらの余剰票を先に移譲しても結果が変わらない。
  • B.最終的な保有率を見るだけで、各有権者は自分の一票がどのように使われたかを知ることができる。

ニュージーランドの地方選挙

Meek法はニュージーランドの地方選挙で導入されています。各地方自治体は、Meek法による単記移譲式か、小選挙区制(FPP)かを選ぶことができます。

例えば、ウェリントン市の選挙の様子は、ウェリントン市のウェブサイトで見ることができます。

保有率とは?

保有率とは、各候補に割り当てられる0以上1以下の数です。候補者\(1\)、候補者\(2\),\(...\),候補者\(n\) は、それぞれ保有率 \(k_1, k_2, \dots, k_n\) が割り当てられます。

\(k_i\)は次の量を意味します。

候補者\(i\) は、自分に流入した得票のうち割合 \(k_i\) だけを保有し、残りの割合 \(1-k_i\)を次の順位の候補者に流出させる。

\(k_i=1\) は他の候補にまったく票を移譲しないことを意味します。一方、\(k_i=0\) はすべての票を移譲することを意味します。

一般に、保有率を減少させることは、自分の得票を減らし、他の候補の得票を増加させることを意味します。

得票数の計算

ある有権者が、\(i_1, i_2, \dots, i_n\) の順に候補者を順序付けて投票したとすると、保有率が\((k_1, k_2,\dots, k_n)\) のとき、\(m\) 番目の候補者 \(i_m\) はこの一票から \[(1-k_{i_1})(1-k_{i_2})\dots (1-k_{i_{m-1}})k_{i_m}\] だけ獲得します。

すなわち、候補者\(i_m\)に流入した分が、\[(1-k_{i_1})(1-k_{i_2})\dots (1-k_{i_{m-1}})\] であり、そのうちの割合にして \(k_{i_m}\) だけを保有し、残りの割合にして\(1-k_{i_m}\) すなわち\[(1-k_{i_1})(1-k_{i_2})\dots (1-k_{i_{m-1}})(1-k_{i_m})\]だけを\(m+1\) 番目の候補者 \(i_{m+1}\)へ流出させるのです。

すべての有権者の票をこの規則にしたがって配分すると、保有率が\((k_1, k_2,\dots, k_n)\) のときの全候補者達の得票数が決まります。

保有率と得票数が対応する

例として、4候補A,B,C, Dに対して、上の表のように投票がなされたとき、保有率によって得票がどのように変化するのかを計算してみましょう。

以下の表は、いくつかの保有率の組み合わせについて、得票数を計算したものです。

例えば、V の場合の候補Bの得票数は、次のように計算します。

\[\begin{align*}35(1-k_A)k_B+34k_B&+13(1-k_C)k_B\\ \>\>&+17(1-k_D)k_B=27.3\end{align*}\]

保有率の決まり方I

ミーク法では、最終的な保有率は次のように決まります。

  • Step 1. 次の条件を満たすような最小の保有率の組 \((k_1,k_2,\dots,k_n)\) を定め、この保有率での得票が基数を下回らない候補者がすべて当選となる。

    条件: 除外されていない各候補 \(i\) について、得票が基数に満たない場合は\(k_i=1\)である。除外された各候補 \(i\) については、\(k_i=0\) である。

  • Step 2. 当選者が議席数に満たないときは、最下位の候補者を除外し、Step 1 へ戻る。

最小の意味

Step 1 保有率の組 \((k_1,k_2,\dots,k_n)\) が「最小」であるとは、同じ条件をみたす他の保有率の組\((k'_1,k'_2,\dots,k'_n)\)と比較したとき、各成分で \(k'_i\geq k_i\) が成立していることを意味しています。「最小」であることは、基数に達する候補については、できるだけ保有率を下げて他候補に票を移譲せよ、という要請だと理解できます。

条件をみたすような保有率の組は複数通りありえますが、そのうちの「最小」は必ず存在し、しかも一通りに限られることが数学的に保証されています。

計算方法は技術的な問題

最小の保有率は一通りしかないので、全部の場合を試して比較すれば最小の保有率は求まります。しかし、全部の場合を試すのは時間的に大変なので、選挙の実務では、うまく計算する方法が重要になります。しかし、それは技術的な問題にすぎません。

従来のミーク法の解説は、「最小」の概念によらず、直接的に計算方法の解説をするものが多いので、「ミーク法は複雑である」という印象を持つ人が少なくありません。実際にはミーク法は以上のように単純なものです。

保有率の決まり方II

保有率の決まり方を理解するために、例として候補がA,B,C,Dの4人の選挙で3人が当選するとし、上の表のように投票がなされたときを考えてみましょう。保有率は0.1刻みで考えてみましょう。ドループ基数は、\(99/4= 24.75\) です。

以下の表は、いくつかの保有率の組み合わせについて、得票数を計算したものです。

表の中の、条件とは次の条件です。

条件: 除外されていない各候補 \(i\) について、得票が基数に満たない場合は\(k_i=1\)である。除外された各候補 \(i\) については、\(k_i=0\) である。

I・IV のケースは、条件をみたしませんが、II・ III・Vのケースは条件をみたします。実際、Iのケースでは、候補Cの得票は、基数を下回っているのにも関わらず、候補の保有率は1未満です。

Vのケースは、条件をみたす保有率の組の中で最小なものです。

すなわち、保有率の組み合わせは、全部で \(10^4 =10000 \) 通りありますが、そのうちで条件がOKになるものと比較すると、Vのケースの保有率がA・B・C・Dのすべてについて、等しいか小さくなっているかのどちらかであるということです。

実際、この保有率が、条件を満たしていること、および条件をみたす他の保有率の組( II および III) と比較して、各成分が小さくなっていることが確認できます。例えば、Bの保有率が0.6より小さいときは、必ず条件がNGになっているという訳です。

正確に最小であることを示すには、ここに書かれている5通りだけでなく、ここに書かれていないものも含めたすべてのケース(全部で \(10^4 =10000 \) 通り) と比較する必要があります。Vのケースが最小であることは、コンピューターで確認してあります。

計算方法 I(技術的問題)

最小の保有率は一通りしかなないので、全部の場合を試して比較すれば最小の保有率は求まります。しかし、全部の場合を試すのは時間的に大変なので、選挙の実務では、うまく計算する方法が重要になります。あくまでも技術的な問題にすぎませんが、ここではその計算方法を解説します。

ニュージーランドでは、次の方法が最小の保有率の計算方法として採用されています。

方法1: 最初はすべての候補について保有率を仮に1として、次の式にしたがって、繰り返し保有率を減少させていく(ただし、端数は切り上げる。)。 \[新たな保有率:=\frac{基数}{現在の流入票} \] すべての候補について、上式によってこれ以上保有率を下げることができなくなったとき、手続きを終える。

計算方法 II(技術的問題)

次の動画は、方法1にしたがって Step 1 の過程を説明しています。

保有率の刻み幅を限りなく小さくし、端数の切り捨てを行わなければ、上記の方法で保有率は、「最小」保有率に限りなく近づき、場合によってはどこかで最小保有率に到達します。

方法 1 は、保有率を下げていくことで余剰票を移譲していくので、伝統的な単記移譲式と類似点があります。しかし、若干の技術的な問題が残ります。

実際には、保有率は \(0.01, 0.02, \dots,1\) など一定の間隔でとびとびの値を取ります。その際、さらに保有率を下げることが出来るかどうかを判定するのは容易ではありません。

計算方法 III(技術的問題)

以下の例は、4人の候補についての投票例です。3議席の選挙では、ドループ基数は49です。保有率を0.1きざみ、すなわち、1, 0.9. 0.8, ... ,0 の11段階で考えてみましょう。

保有率が全員1の場合の得票が、以下のようになります。

保有率と得票
候補 A B C D
保有率 1 1 1 1
得票 52 52 45 47

候補AおよびBは、保有率を下げられるでしょうか?方法1に基づいて考えれば、\(0.9 < \frac{49}{52}\)となって、0.1刻みでは、保有率は下げられないという結論になります。

実際には、以下の数値例が示すように、保有率を下げることができます。移譲の結果、候補Cは得票順で候補Dを抜いて、しかもドループ基数に達していることに注意してください。

保有率と得票
候補 A B C D
保有率 0.8 0.8 1 1
得票 49.92 49.92 49.16 47

しかし、方法1を次の方法で置き換えることにとってStep 1 の正確な計算が可能になります。

方法2. 除外されていない候補全員の保有率を0からスタートさせ、各候補は得票が基数を下回るかぎり次の式にしたがって、繰り返し保有率を上昇させていく(ただし、端数は切り上げる。)。 \[新たな保有率:=\frac{基数}{現在の流入票} \] 上昇できなくなったとき、手続きを終える。

方法2は、保有率を上げていく操作になっており、方法1とは対照的になっています。