ミーク法

ミーク法は、1969年 Brian Meek によって提案された方法です。ミーク法の特徴は、保有率を通じて票の移譲を行うことです。

保有率を通じて票を移譲することによって、ミーク法は次のことを可能にします。

  • A.票を移譲すべき候補が二人以上いても、どちらの余剰票を先に移譲しても結果が変わらない。
  • B.最終的な保有率を見るだけで、各有権者は自分の一票がどのように使われたかを知ることができる。

ニュージーランドの地方選挙

Meek法はニュージーランドの地方選挙で導入されています。各地方自治体は、Meek法による単記移譲式か、小選挙区制(FPP)かを選ぶことができます。

例えば、ウェリントン市の選挙の様子は、ウェリントン市のウェブサイトで見ることができます。

ウィキペディア財団理事選挙

2021年8月のウィキペディア財団の理事選挙はMeek法で行われました。詳しくは、こちらへ

保有率とは?

保有率とは、各候補に割り当てられる0以上1以下の数です。候補者\(1\)、候補者\(2\),\(...\),候補者\(n\) は、それぞれ保有率 \(k_1, k_2, \dots, k_n\) が割り当てられます。

\(k_i\)は次の量を意味します。

候補者\(i\) は、自分に流入した得票のうち割合 \(k_i\) だけを保有し、残りの割合 \(1-k_i\)を次の順位の候補者に流出させる。

\(k_i=1\) は他の候補にまったく票を移譲しないことを意味します。一方、\(k_i=0\) はすべての票を移譲することを意味します。

一般に、保有率を減少させることは、自分の得票を減らし、他の候補の得票を増加させることを意味します。

\(k_i\)の取りうる値を \(0\) 以上 \(1\) 以下の実数として考察することも有意義ですが、ここでは数値計算を考えやすいように、有限個の値 (例えば、\(\{1,0.9,0.8,\dots,0\}\)) と想定します。

得票数の計算

ある有権者が、\(i_1, i_2, \dots, i_n\) の順に候補者を順序付けて投票したとすると、保有率が\((k_1, k_2,\dots, k_n)\) のとき、\(m\) 番目の候補者 \(i_m\) はこの一票から \[(1-k_{i_1})(1-k_{i_2})\dots (1-k_{i_{m-1}})k_{i_m}\] だけ獲得します。

すなわち、候補者\(i_m\)に流入した分が、\[(1-k_{i_1})(1-k_{i_2})\dots (1-k_{i_{m-1}})\] であり、そのうちの割合にして \(k_{i_m}\) だけを保有し、残りの割合にして\(1-k_{i_m}\) すなわち\[(1-k_{i_1})(1-k_{i_2})\dots (1-k_{i_{m-1}})(1-k_{i_m})\]だけを\(m+1\) 番目の候補者 \(i_{m+1}\)へ流出させるのです。

すべての有権者の票をこの規則にしたがって配分すると、保有率が\((k_1, k_2,\dots, k_n)\) のときの全候補者達の得票数が決まります。

基数の計算

保有率 \((k_1, k_2,\dots, k_n)\) に応じて、各候補のの得票数が \(v_1, v_2, \dots, v_n\) と決まったとき、議席数 \(m\) に対する基数 \(d\) を次のように計算します。

\[d:=\frac{v_1+v_2+\dots +v_k}{m+1}\]

ここでは、基数を丁度全体の \(m+1\) 等分で定義します。伝統的な方法では、この数より小さな数を足したものを用いますが、この小さな数に特別な根拠がある訳ではありません。そのかわり、ここでは、基数を超えた場合を当選、基数以下ならば落選という解釈を取ります。

得票数の計算例

保有率と得票数が対応する

例として、4候補A,B,C, Dに対して、上の表のように投票がなされたとき、保有率によって得票がどのように変化するのかを計算してみましょう。

以下の表は、いくつかの保有率の組み合わせについて、得票数を計算したものです。

例えば、V の場合の候補Bの得票数は、次のように計算します。

\[\begin{align*}35(1-k_A)k_B+34k_B&+13(1-k_C)k_B\\ \>\>&+17(1-k_D)k_B=27.3\end{align*}\]

保有率の決まり方I

ミーク法では、最終的な保有率は次のように決まります。

  • Step 1. 次の条件を満たすような最小の保有率の組 \((k_1,k_2,\dots,k_n)\) を定め、この保有率での得票が基数を下回らない候補者がすべて当選となる。

    条件: 除外されていない各候補 \(i\) について、得票が基数を超えない場合は\(k_i=1\)である。除外された各候補 \(i\) については、\(k_i=0\) である。

  • Step 2. 当選者が議席数に満たないときは、最下位の候補者を除外し、Step 1 へ戻る。

最小の意味

Step 1 保有率の組 \((k_1,k_2,\dots,k_n)\) が「最小」であるとは、同じ条件をみたす他の保有率の組\((k'_1,k'_2,\dots,k'_n)\)と比較したとき、各成分で \(k'_i\geq k_i\) が成立していることを意味しています。「最小」であることは、基数を超える候補については、できるだけ保有率を下げて他候補に票を移譲せよ、という要請だと理解できます。

条件をみたすような保有率の組は複数通りありえますが、\(k_i\)の取りうる値は有限個であるという想定の下では、そのうちの「最小」は必ず存在し、しかも一通りに限られることが数学的に保証されています。

計算方法は技術的な問題

最小の保有率は一通りしかないので、全部の場合を試して比較すれば最小の保有率は求まります。しかし、全部の場合を試すのは時間的に大変なので、選挙の実務では、うまく計算する方法が重要になります。しかし、それは技術的な問題にすぎません。

従来のミーク法の解説は、「最小」の概念によらず、直接的に計算方法の解説をするものが多いので、「ミーク法は複雑である」という印象を持つ人が少なくありません。実際にはミーク法は以上のように単純なものです。

保有率の決まり方II

保有率の決まり方を理解するために、例として候補がA,B,C,Dの4人の選挙で3人が当選するとし、上の表のように投票がなされたときを考えてみましょう。保有率は0.1刻みで考えてみましょう。ドループ基数は、\(99/4= 24.75\) です。

以下のボタンをクリックすると表が表示されます。

open

この表はさまざまな保有率の組み合わせについて、得票数を計算するものです。保有率の欄に、0.1から1まで0.1刻みの数値を半角で入力し、計算ボタンを押すと得票数が計算されます。

候補者
A
B
C
D
保有率
得票
 
 
 
 
条件
 
 
 
 
Close
基数
全体

表の中の、条件とは次の条件です。

条件: 除外されていない各候補 \(i\) について、得票が基数に満たない場合は\(k_i=1\)である。除外された各候補 \(i\) については、\(k_i=0\) である。

各 \(i\) について、条件がみたされた場合にOKが表示され、そうでない場合はNGが表示されます。また、すべての \(i\) について条件が満たされた場合が、全体の条件がOKになるときです。

保有率の組み合わせは、全部で \(10^4 =10000 \) 通りありますが、そのうちで全体条件がOKになるもののうちで、最も保有率が小さいものが、求める保有率になります。

以下の表は、いくつかの保有率の組み合わせについて、得票数を計算し条件をチェックしたものです。

I・IV のケースは、条件をみたしませんが、II・ III・Vのケースは条件をみたします。実際、Iのケースでは、候補Cの得票は、基数を下回っているのにも関わらず、候補の保有率は1未満です。

Vのケースは、条件をみたす保有率の組の中で最小なものです。

すなわち、Vのケースの保有率がA・B・C・Dのすべてについて、等しいか小さくなっているかのどちらかであるということです。

実際、この保有率が、条件を満たしていること、および条件をみたす他の保有率の組( II および III) と比較して、各成分が小さくなっていることが確認できます。例えば、Bの保有率が0.6より小さいときは、必ず条件がNGになっているという訳です。

正確に最小であることを示すには、ここに書かれている5通りだけでなく、ここに書かれていないものも含めたすべてのケース(全部で \(10^4 =10000 \) 通り) と比較する必要があります。Vのケースが最小であることは、コンピューターで確認してあります。

計算方法 I(技術的問題)

最小の保有率は一通りしかなないので、全部の場合を試して比較すれば最小の保有率は求まります。しかし、全部の場合を試すのは時間的に大変なので、選挙の実務では、うまく計算する方法が重要になります。あくまでも技術的な問題にすぎませんが、ここではその計算方法を解説します。

ニュージーランドでは、次の方法が最小の保有率の計算方法として採用されています。

方法1: 最初はすべての候補について保有率を仮に1として、次の式にしたがって、繰り返し保有率を減少させていく(ただし、端数は切り上げる。)。 \[新たな保有率:=\frac{基数}{現在の流入票} \] すべての候補について、上式によってこれ以上保有率を下げることができなくなったとき、手続きを終える。

次の動画は、方法1にしたがって Step 1 の過程を説明しています。

方法 1 は、保有率を下げていくことで余剰票を移譲していくので、伝統的な単記移譲式と類似点があります。しかし、技術的な問題が残ります。実は、方法1では、最小の保有率にたどり着かない可能性があるのです。

計算方法 II(技術的問題)

以下の例は、4人の候補についての投票例です。3議席の選挙では、ドループ基数は49です。保有率を0.1きざみ、すなわち、1, 0.9. 0.8, ... ,0 の11段階で考えてみましょう。

保有率が全員1の場合の得票が、以下のようになります。

保有率と得票
候補 A B C D
保有率 1 1 1 1
得票 52 52 45 47

候補AおよびBは、保有率を下げられるでしょうか?方法1に基づいて考えれば、\(0.9 < \frac{49}{52}\)となって、0.1刻みでは、保有率は下げられないという結論になります。

実際には、以下の数値例が示すように、保有率を下げることができます。移譲の結果、候補Cは得票順で候補Dを抜いて、しかもドループ基数に達していることに注意してください。

保有率と得票
候補 A B C D
保有率 0.8 0.8 1 1
得票 49.92 49.92 49.16 47

計算方法 III(技術的問題)

上昇法

しかし、方法1を次の方法で置き換えることにとってStep 1 の正確な計算が可能になります。

方法2. 除外されていない候補全員の保有率を0を超える最小の数からスタートさせ、各候補は得票が基数を下回るかぎり次の式にしたがって、繰り返し保有率を上昇させていく(ただし、端数は切り上げる。)。 \[新たな保有率:=\frac{基数}{現在の流入票} \] 上昇できなくなったとき、手続きを終える。

方法2は、保有率を上げていく操作になっており、方法1とは対照的になっています。

上昇のさせかたは自由

保有率を上昇させながら、解を探す方法は、少々の「間違え」にも寛容な方法です。すなわち、NGになっている候補について1段階ずつ保有率を上昇させていけば、全員がOKになった時の保有率の組が「最小」になります。このとき、複数発生するかもしれないNGの候補をどのように選んでも、最終的には同じ「最小」の保有率の組にたどり着きます。

最初に計算した数値例で、確かめて見ましょう。

open

最初全員を0.1にセットして、計算を押します。その後は、NGが表示された候補の保有率を1段階ずつ上昇させてください。最終的にNGの候補がいなくなった時点で計算は終了です。

一方、方法2は、一人の候補者について1段階ずつ上昇させるのは非効率なので、できるだけ効率よく保有率を上昇させていく方法だということがわかります。刻み幅が細かいときは、この差は無視できない可能性がありますが、1段階ずつの上昇でも全部を確かめるよりは随分と効率的であることがわかります。