簡易法

このページでは、市区町村議会の選挙を念頭に、手作業で集計を行う際にそれほどコストがかからない「簡易法」について説明します。

集計作業の時間と費用

単記移譲式は、理解・納得しやすいものだとしても、実際に票を集計し当選者を決定するには、それなりのコストがかかります。

適切な読取分類機・計数機がなければ、手作業で票の分類を行わなければなりません。機械の導入がなかったとしても、大人数で手作業で行うことになるので、人件費がかかります。特に財政の厳しい地方自治体は、単記移譲式の導入は歓迎できないものになるかもしれません。

簡易法の必要性

そこで、これまでの方法と比較して、集計作業がとてつもなく大きくはならない、簡易的な方法を考えておく必要があります。簡易的な方法は、単記移譲式の利点が100%に生かされるわけではありませんが、現行の単記移譲式を大きく改善するものです。一度この方法を実行して、有権者の理解が得られたら、本格的な方法を実行するための費用の問題も解決できるかもしれません。

地方議会での必要性

市区町村議会で「簡易法」が必要になる理由には次の2つがあります。

  • A. 市区町村議会のいくつかは、合理的な区割りが困難であり、都市部では50人にのぼる巨大定数選挙区が存在する。したがって、全候補者を順序づけようとすると、有権者が50人を越える候補者に対して順序づけを行うことになり、投票するのにこれまでに比べて膨大な時間・コストがかかる。
  • B. 市区町村議会の選挙では、開票作業での予算措置に強い制限がある。したがって、コストの観点からは、市区町村にとって、単記移譲式の導入は負担になる。

「簡易法」は、単記移譲式の長所のすべては活かすことはできませんが、次のような特長があります。

  • A. 有権者は、2位まで順位をつけて投票する。
  • B. 開票作業における、すべての票の分類は、これまでの2倍の作業量になる。
  • C. 2人の候補者の間に限っては同士討ちおよび共倒れを抑制することができる。

1. 投票方法

有権者は、2人の候補者に順位をつけて投票します。有権者にとっては、この順位は自分の1票の行き先を決める優先順位です。

投票は候補者名を自分で書く、自書式で行うことも十分可能でしょう。候補者が決定してから、投票用紙を印刷する手間を省くことができます。

2. 開票作業

候補者の数が \(n\) 人であるとき、白票や一位だけを書いた票も含めて票の種類は、\(1+n^2\) 種類あります。しかし、一つの票を二度数えれば良いので、票の分類作業は、単記非移譲式の2倍で済みます。

「開票作業の複雑さ」とは、単に票の分類項目が増えることを意味します。この場合は、二位までに制限することで、この分類項目の増加を抑えている訳です。

3. 当選者の決定

票の移譲は、分類した票のデータを使って、コンピューター上で行います。ミーク法を用いるのか、いずれかのグレゴリ法を用いるのかについては、選択の余地があります。

プログラムは、予め用意されたものを使えばよく、分類した票のデータを公表しておけば、票の移譲と当選者の決定が正しく行われていることを第三者が検証することも可能です。

第二位までしか指定していないので各票の移譲は一回までです。しかし、第二位に指定した候補が、まだ当選・落選の決まっていなければ、移譲は有効に生かされます。ミーク法であれば、たとえ第二位に指定した候補の当選が決まっていたとしても、保有率の低下を通じて、移譲は有効に生かされます。

A.オリジナルのグレゴリ法の場合

オリジナルのグレゴリ法は、(A) 当選者には票を移譲しない、(B)当選者からの票の移譲は、直前に加わった票のみを対象とするやり方です。 二位までに制限された簡易法で、オリジナルのグレゴリ法を採用した場合、次の性質を持ちます。

  • 票の移譲を行う当選者は、第一集計で当選した当選者に限られる。

したがって、第一集計の当選者の票を重みをつけて移譲したあとは、新たに票の重みを計算する必要はありません。したがって、票の分類データから手計算で当選者を決定することも現実的に可能になります。

パソコンが苦手でも計算が得意な有権者にも、検証ができるものになります。

移譲の規模の試算 I

以下のグラフは、東京都練馬区の2019年の選挙結果です。有効投票総数は243,311票 50人が当選 ドループ基数は4771票 第一位は8435票 第50位は2799票 です。

かりに、この結果を「第一順位での集計」とみなすと、1位から19位までの当選者から21,838票分が他候補へ移譲されることになります。 一方、次点を除いた落選者の票数の合計は、14,216票なので少なくとも合計で、36,054票(14%)が当選者の決定に再利用されることになります。

移譲の規模の試算 II

以下のグラフは、東京都世田谷区の2019年の選挙結果です。有効投票総数は310498票 50人が当選 ドループ基数は6089票 第一位は9972(+端数)票 第50位は3667(+端数)票 です。

かりに、この結果を「第一順位での集計」とみなすと、1位から11位までの当選者から15,777(+端数)票分が他候補へ移譲されることになります。 一方、次点を除いた 落選者の票数の合計は、45,702(+端数)票です。合計で、61,479(+端数)票(20%弱)が当選者の決定に再利用されることになります。